数理と社会 --- 身近な数学でリフレッシュ
- 河添 健著
- 1900円+税
- 200ページ
- 四六判
- 大学生をはじめ現代人にきわめて乏しくなっている,数学を楽しく勉強する環境を提供します.
- 楽しく数学に接し,考えることを目的として解説しました.
- 高校生,大学文系学生,社会人も各種の数理モデルを理解する知識を身につけてほしいという願いを
基に執筆しています.
- 目次
- 第1章 ジュラシック・パークの数学
1.1 映画の中の数学者/
1.2 ジュラシック・パーク/
1.3 太陽と地球と月/
1.4 不規則な運動/
1.5 北京で蝶が舞うと,NY は嵐
- 第2章 不思議な数たち
2.1 大きな素数/
2.2 素数を作る式/
2.3 メルセンヌ素数/
2.4 完全数/
2.5 友愛数/
2.6 まだまだある不思議/
2.7 素数の個数
- 第3章 A4用紙の三つ折
3.1 A4紙の秘密/
3.2 整数比を探そう/
3.3 3等分点の求め方
- 第4章 黄金比の不思議
4.1 ユークリッドの問題/
4.2 黄金比/
4.3 ペンタクルと黄金比/
4.4 生活の中の黄金比
- 第5章 フィボナッチ数列と黄金比
5.1 フィボナッチ数列の性質/
5.2 フィボナッチ数列と黄金比/
5.3 連分数と黄金比/
5.4 一般項は/
5.5 生活の中のフィボナッチ数列
- 第6章 ポーカーと確率
6.1 ポーカーの役と確率/
6.2 ワンペアのとき何枚かえるか/
6.3 40人クラスで同じ誕生日の人がいる確率/
6.4 共通の友達がいる確率/
6.5 降水確率/
6.6 地震確率
- 第7章 お見合いの戦略
7.1 サイコロ餃子/
7.2 宝くじは買う?/
7.3 サイコロ賭博/
7.4 クイズの懸賞金/
7.5 お見合いの戦略
- 第8章 スパムメールの判定
8.1 条件付確率/
8.2 ベイズの定理
- 第9章 暗号の歴史
9.1 古典暗号/
9.2 戦争と暗号/
9.3 共通鍵と公開鍵
- 第10章 モジュラスの世界
10.1 四則演算/
10.2 ユークリッドの互除法/
10.3 ax=bは解けるか?/
10.4 オイラーの関数
- 第11章 公開鍵の仕組み
11.1 共通鍵と公開鍵/
11.2 ピザの注文/
11.3 数学の裏付け/
11.4 秘密鍵はなぜバレない
- 第12章 出会いの確率
12.1 図形を使って解く/
12.2 円周率とモンテカルロ法
- 第13章 ドント方式って何?
13.1 投票形式/
13.2 議席の配分方法/
13.3 比例配分とドント方式
- 第14章 ゲームの理論
14.1 支配戦略/
14.2 ナッシュ均衡/
14.3 混合戦略
- 付録 もっと勉強しよう
A.1 ニーチェとカオス/
A.2 素数を生み出す式/
A.3 メルセンヌ素数と完全数/
A.4 リーマン予想と素数定理/
A.5 フィボナッチ数列と黄金比/
A.6 ベイズの定理/
A.7 残されたビール暗号書/
A.8 ユークリッドの互除法/
A.9 オイラーの関数の性質/
A.10 バーコートと新ISBN /
A.11 ダ・ヴィンチ・コードはフィクション?
- まえがき
高校生の頃(30数年前)と比べると教科書は明らかにやさしくなっている.
色彩が豊かで写真やイラストも多い.
あの頃にこんな教科書があったらもっと楽しく気楽に数学を勉強できたのにと正直に思う.
しかし教科書は生徒の学力に合わせて書かれているので,
今の生徒が楽しく気楽に数学を勉強しているわけではない.
昔と同じように数学に苦労している.してみるとこの30年間,
数学教育は負の螺旋階段を登り続けている.
登り続けること,数学に接し考え続けることは肝心である.
どんな形でもよいから高校の3 年間,
大学そして社会生活の中で継続して数学に触れることが重要である.
そのような環境を作ることの本質は教授内容と教授方法にあると思う.
大学初年度の数学の講義は,理工系だと『微積分』と『線形代数』から始まる.
学生は高校で数III, Cまで勉強しているので何とか同じスタートラインである.
ところが文系だとそうはいかない.受験科目に数学I, II, A, Bを課していれば問題はないが,
そうでないと数学I, Aだけ,一年間しか履修していない学生もいる.
その結果,数学は選択科目となり,
内容も『教養の数学』などが定番となる.これでは大いに困る.
文系の学生でも各種の数理モデルを理解するぐらいの知識を身につけて欲しい.
ここでもそのための教授内容と教授方法が問われている.
ところで理系と文系と言うと,
いかにも理系の生徒が文系の生徒に比べて数学に強いとの印象がある.
30年前は確かにそうであった.しかし現在は上位の3割ぐらいを除けば,
それぼど差は大きくないのではないか.
とくに考えない学生という視点では理系も文系も同じである.
さらには理系の学生の中での信じがたい事例がその僅差を物語っている.
sin(x+y)=sin x + sin yとかsinx/x = sinと計算する学生,
3年生で定義と定理の区別ができない学生,修士2年生で
「先生,修士論文のテーマ決まりましたか?」と質問する学生などなどきりがない.
学会などで同僚と情報交換するのが楽しくなるくらいである.
だんだんと現実が浮かび上がってきた.
要するに理系も文系も関係なく,
数学を楽しく勉強する環境がきわめて少ないのである.
また的外れの数学を勉強している学生も大勢いる.
このように数学の教授内容と教授方法が問われる中で,
『数理と社会』という科目を大学初年度に設置した.
数学に楽しく接し,考えることを目的とした講義であり,
本書はそのテキストである.主たる受講生は文系の学生であるが,
理系の学生も十分に楽しめる.
できれば高校生や社会人にも読んでもらいたい.
多くのテーマは社会と接点がある数学なので,
数学に限らず,背景にある社会問題も大いに議論してもらいたい.
映画に関する話題がしばしば登場する.単に著者の好みだが,
映画も注意深く観ると結構,数学が関わっていることに気づく.
慶應義塾大学総合政策学部
河添 健