多面体 新装版

P.R.クロムウェル 著
下川航也・平澤美可三・松本三郎・丸本嘉彦・村上 斉 訳
B5変型判・並製・448頁+カラー8頁・4500円+税

豊富な図版・イラスト・写真
楽しく・深く・おもしろい
ロマンあふれる多面体ワールドへ!

多面体は 2000年にわたって,数学における研究対象の一つとなっており,その多く の分野に貢献してきた.であるから,多面体の歴史や数学的な性質に関する情報が非 常に見つけにくいというのは驚くべきことである.多面体の研究は今も盛んに行われ ている分野であり,幾何学の他の分野とともに現在ではちょっとしたルネサンス期を 迎えている.しかしながら,5個のプラトン立体のように基本的な研究対象を知らず に大学を卒業することも(おそらく)可能である.適切な情報源がないことがこの状況 を助長している.この本はこの欠如に対して答えようとしたものである.この本では, 人類が何年もの間多面体に関して何を考えてきたかを伝え,多面体を研究するために 発展してきた数学の一部分を説明する.

7年以上も前に私がこの本を書き進める企画を始めたきっかけは偶然のことであっ た.そのとき私はリバプール大学の博士課程を終えたところであり,当時リバプール 大学数学教室では数学に関する展示品の収集を始めたばかりであった.その中には正 則と名付けられたすべての多面体(5個のプラトン立体,4個の星型多面体,5個の複 合体)の模型が含まれていた.教室の教員と研究生によって行われるセミナーでは,特 に専門にかたよらない話の時間が毎週確保されており,これによって仲間がどんなこ とを考えているかを知ることができた.このセミナーで新しい多面体の模型の数学的 な性質をいくつか説明しようと決心した.簡単に手に入る本をいくつか調べれば必要 な情報はすべて見つかると素朴に期待して,私は図書館を訪れた.見つかった本は 3 つの種類に分けられた.まず,よく「娯楽としての数学」という類の本がある.こう いった本はたいてい,数種類の多面体の基本的な性質のために 1〜2章を割いている. この種のもっと進んだ本ではオイラーの公式について言及している.これとは逆の方 向を向いている種類の本もある.任意の次元の多面体を中心に解説し,ときには 3次元の例を扱うこともある.私が見つけたそれ以外の種類の本は模型を作るための入門 書である.数学の歴史についての分厚い本であってもギリシャ時代以降の多面体の話 題に関してはほとんど解説されていない.これはおそらくこの話題が「数学の主流」 に属するものとは思われていないからだろう.

私はできるかぎりすべての情報をこれらの資料から少しずつ集めた.参考文献に従っ て雑誌の記事も調べ,徐々にこの分野の概観を発表するのに十分な材料を組み立てる ことができた.展示模型に私自身のコレクションの中からいくつか付けたし,「多面体 の歴史」について話した.セミナーの後で,仲間の何人かが出典についての質問をし た.私が経験した苦労を聞いて,このテーマについて詳しく書いてみてはどうかと提 案してくれた.その後,もとの話の細部を埋めるために情報を集め,その結果できた のがこの本である.

私は歴史家ではないので,この本が多面体の歴史と見なされるかどうかは疑わしい. 私は単に興味深いと思った事柄を集めて,それを話題別に分類しおおよその年代順に 並べ替えたのである.定義と定理の一覧よりはましなものを提供するというのが目的 であった.多くの教科書で使われている無味乾燥なスタイルでは,説明されている結 果に至った動機を無視し,読者は必要のない細かな点に惑わされるという傾向にある.

私は結果を文脈の中で考え,根底にあるアイデアの発展をたどろうと試みた.そして, そのアイデアが数学や数学以外の分野における他の問題にどのような影響を与えてい るか,また,どのような関係にあるかを知ろうとした. 私の選んだ題材はもちろん個人的な好みに従った選択である.この本は確かに百科事 典的なものではないが,世紀の変わり目^1 までの範囲はまず完全に扱っていると思う. 話題は 3次元の幾何学的な側面を中心にしている.これは多面体の魅力の多くが模型 を作ったりそれを試したりすることから生じるからである.グラフ理論として再構成 できる題材はほとんど含まれていない.つまり今世紀 1に発展した多面体の組み合わ せに関する性質の多くが扱われていないことになる.この種のもので,私がわかってい る範囲で省かれているのが 3つある.まず,この題材の幾何学的側面と組み合わせ的 側面をつなぐのに中心的役割を果たすスタイニッツの定理である.この定理について の解説はグルンバウムの著書 “Convex Polytopes”で容易に手に入る.エベルハード 型の定理とアレクサンドロフの定理に関する議論も行われていない.これ以上に,双 対性に言及していないことに驚く読者もいるだろう.振り返ってみればこの概念はもっ と前の研究に見られるのであるが,その研究をした人が双対性に気づいていたかどう かは不明である.いずれにしても双対性とは何であろうか?プラトン立体の持つ相互 的な関係についてたまたま注目したことが,明瞭な解答というよりよけいな混乱をも たらしたかもしれない.つまり,射影的な双対性と組み合わせ的な双対性が長年混同 されてきたのである.さらに期待されるところにいつも双対性を発見できたわけでは ない.例えば,面推移的な多面体から頂点推移的な多面体を「双対性によって」構成す る方法はない.この題材を完全に論ずるのにはそれだけで 1章を必要とするであろう.

その他に触れなかった話題は空間充填多面体や隣接多面体,高次元多面体やタイル 貼りとの関係,種々の機(はた)多面体,数学的に興味深い曲面の多面体的埋め込み, それから線形プログラミングと計算幾何学への応用である. 本書をざっと見れば,多くの図が使われていることに気づくであろう.目で見るこ とによって基礎を直観できるような議論をするときには,こういったものが重要であ ると私は考える.この本には証明も含まれており,簡単だが完全な説明をするように 努めた.大部分の証明は本書だけで間に合うようになっている.ただし,例外として 最後の 2章においては群論のある種の応用を必要としている.そこで使われている定 理は付録 2で論じられている.
 (後略)
ピーター・クロムウェル 1996年リバプールにて

目次

第0章 はじめに
第1章 分割できないもの,表現できないもの,避けられないもの
第2章 規則と正則性
第3章 多面体幾何の衰退と復活
第4章 幻想性,調和性,一様性
第5章 曲面, 立体, 球面
第6章 相等性, 剛体性, 柔構造
第7章 星型多角形,星型多面体,骨格多面体
第8章 対称性,形,構造
第9章 色を塗る,数え上げる,計算で求める
第10章 組み合わせる,変形する,飾りつける