考える微分積分

阿原一志 著
A5判・並製・232頁・2300円+税

大学理工系1-2年生のための教科書。「やさしい証明は自分で考えなさい」をめざす。

まえがき

まえがき


この教科書は大学の初年度の微分積分学の授業で使う授業ノートを纏めたもの である.一般教養の数学は「考えることを楽しむ科目」であるはずだとの信念か ら,最低限の知識を用いて最大限の練習問題を引き出せるように工夫した.その ため,練習問題は基礎的な問題からかなり応用的なものまで並ぶこととなった. 「ゆとり教育」世代になってから,高校までの知識をあまり仮定できなくなっ た.このことから,微分や積分についても非常に基本的な内容を念のため含めて いる.また,大学の数学固有の記号や言葉についても,高等学校での数学との違 いをていねいに説明することにした.授業の範囲としては,初学年で 1変数の微分と積分にとどまるのが普通であるが,多くの学生はそのまま 2変数の 微分と積分を学習しないままに卒業すると思われるので,2変数の微分と積分の基 本的な部分も含み,大学を卒業した後にも参考書として引き続き使えるように これらも含むことにした.

この本のスタンスはよくある微分積分学の教科書とはやや違う.やさしい証明 は自分で考えなさいというのがこの本の目指すところである.解答がなければ勉 強できません,と学生に言われる今日この頃であるが,頭を絞って解答を考える ことに意味があるのである.散々考えて分からないことは罪ではなく,財産にな ると思わなければならない.
微分積分の教科書で収束,極限をどのように取り扱うかは絶えず問題になる.高 校の教科書では収束・極限は厳密な定義なしで性質を学習することになっている. 厳密な定義は専門家だけのためのものであるという意見は依然根強く,有名大学 の 1年の微分積分の講義で極限の定義を行わないシラバスも散見される.
この教科書では,極限に関して,純然たる専門的な定義(いわゆる「イプシロ ン・デルタ」「イプシロン・エヌ」)を再解釈し,正確ではあるが感覚的にも理解 しやすいように工夫した定義を採用した.そのうえで,それを読むもよし飛ばす もよし,どちらでもよいように教科書を構成した.たとえば,授業では取り扱わ なくとも,証明のやさしい部分は章末の演習問題で考えてみるということも可能 である.極限の定義に関しては,「数学はただの道具」と考える人は飛ばせばよく, 「数学は考えるトレーニング」と考える人は取り組めばよい.
単位を取ることに汲々としていると微分積分は計算公式のオンパレードで最悪に 退屈である.しかし,わずかの定義とルールから問題を考えることは楽しい.楽 しい部分を読者が汲んでくれることを切望してやまない.

2012年元旦
                                 著 者

目次

目次

第1章 関数の極限・収束
    1.1 関数の極限の定義とは
    1.2 閾値による極限の定義
    1.3 極限の例
    1.4 極限の基本公式
    1.5 発散の定義


第2章 微分の定義と基本公式
    2.1 微分の定義
    2.2 導関数の基本公式

第3章 初等関数
    3.1 逆関数
    3.2 無理関数
    3.3 指数関数・対数関数
    3.4 双曲線関数
    3.5 逆三角関数


第4章 微分の応用
    4.1 ロピタルの定理
    4.2 関数のグラフ
    4.3 パラメータ曲線の微分
    4.4 極座標曲線の微分


第 5章 積分の基本
    5.1 基本積分公式
    5.2 置換積分,部分積分
    5.3 難しい不定積分の公式
    5.4 部分分数展開
    5.5 分数関数の積分
    5.6 定積分


第 6章 積分の応用,広義積分
    6.1 区分求積和,リーマン和
    6.2 面積
    6.3 回転体の体積
    6.4 曲線の長さ
    6.5 極座標表示された曲線の長さと囲む面積
    6.6 広義積分


第 7章数列の極限・級数の収束
    7.1 数列の収束
    7.2 正項級数の収束・発散
    7.3 絶対収束
    7.4 べき級数


第8章 テイラー展開
    8.1 高階導関数
    8.2  1次近似
    8.3  2次近似
    8.4 テイラーの定理
    8.5 テイラー展開
    8.6 項別微分,項別積分


第9章 多変数関数の極限,偏微分
    9.1 多変数関数の極限
    9.2 偏微分
    9.3 多変数関数の 1次近似と接平面
    9.4 全微分
    9.5 方向微分,合成関数の微分
    9.6 多変数のテイラーの定理
    9.7 ヘシアン,ラグランジュの未定乗数法


第 10章 重積分
    10.1 グラフで囲まれた平面領域
    10.2 累次積分
    10.3 重積分,リーマン和


第11章 変数変換公式
    11.1 合成関数の微分
    11.2 極座標の変数変換
    11.3 重積分の変数変換
    11.4 正規分布の確率密度関数