素粒子論のランドスケープ

大栗博司著
四六判・上製・344頁・2900円+税

紀元前の宇宙の数学は三角形や円の幾何だった。
17世紀の宇宙の数学は微積分だった。
21世紀の宇宙の数学はなんだろうか。

素粒子論研究でトップランナーである著者が、今までに雑誌などに執筆した
アウトリーチをまとめた。素粒子論、場の理論、超弦理論の過去・現在・未来をみる。

まえがき


はじめに

私は,カリフォルニアの大学で教鞭をとるようになってから 18 年になります。カリフォルニアに引越してから最初の10 年 ほどの間は,日本には 1 年に 1 回帰る程度でした。しかし, 2004 年からは日米国際交流プログラムのおかげで東京大学の 素粒子論研究室を定期的に訪問するようになり,このプログラ ムの締めくくりの 2007 年の春には本郷に 2 ヵ月滞在して研究 をしました。この年には,文部科学省から「世界トップレベル 研究拠点プログラム」の公募があり,東京大学からの「数物連 携宇宙研究機構(IPMU (注1))」の提案をするお手伝いをすること もできました。その秋に設立された IPMU には,私も主任研 究員として参加することになり,超弦理論を中心とする理論物 理学と数学の研究に取り組んでいます。ロサンゼルスと東京の 往復のため,昨年は1 年間で 10 万マイル以上飛行機に乗りま した。

日本に定期的に戻るようになってから,科学解説記事の執筆 を依頼される機会が増え,またIPMU が設立されてからは,科 学アウトリーチの一環として記事の執筆を積極的に引き受けて きました。これらの記事をご覧になった数学書房の横山さん から,単行本として出版したいとのご提案をいただきました。 すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめてお くことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。

いろいろな場所に書いた記事を集めたので,読者の便宜のた めに,☆の数で難易度を表すことにしました。

☆ : 高校生や文科系の学部学生程度を念頭において書いた読み物。
☆☆ : 理科系の学部学生が気楽に読める読み物。
☆☆☆: 数式が遠慮なく出てくる解説記事。

各々の記事のはじめには,記事の背景についての解説をつけ ました。また,本書の末尾に専門用語の解説を書きましたの で,よろしければご参考になさってください。

記事の執筆の際に有益なコメントをいただいた皆さん,ここ に全員の名前をあげることはできませんが,ありがとうござい ます。また,第7 章の対談や第8 章の記事の共著者の青木秀夫 さんは,本書への転載を快く了承してくださいました。本書へ の記事の転載を許可してくださった出版社の皆さんにも感謝し ます。IPMU の広報誌『IPMU News 』に掲載された記事につ いては,印税の相当額をIPMU に寄付し,IPMU の活動に役 立てていただきます。

本書第10 章の「超弦をめぐる冒険」にも書きましたが,研 究室の帰りに夜空の星をながめながら,この答を知っているの は世界に自分しかいないという感動を覚えるというようなこ とは,研究者なら誰しも経験することです。しかし,その後に は,その感動をできるだけ多くの人に伝えたくなる。その意味 で,アウトリーチというのは,研究者にとって自然な活動だと 思います。自分の発見した真実を知ってもらうことは楽しい。

また,このような活動を通じて,自分の研究の意義を反省する ことも大切なことだと思います。日本には普通の書店で手軽に 購入できる科学雑誌が数多くあり,アウトリーチ活動を支えて いることは,社会の科学への関心の高さを表しています。

2011 年8 月柏キャンパスにて
                          大栗博司

注.1 米国のカブリ財団による寄付基金の設立に伴い,2012 年4 月より「カブリIPMU」と改称になりました。

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