数理物理の最前線 量子場の数理

緒方芳子・小嶋 泉・河東泰之編/新井朝雄・河東泰之・原 隆・廣島文生著
A5判・並製・320頁・定価4200円+税

場の量子論は, 数学的立場から見て,挑戦すべき多くのテーマを抱えた問題と アイディアの宝庫である.特に近年,場の量子論の影響が数学のほぼあらゆる 分野に及んでおり,これからもこの傾向はどんどん強くなっていくことだろう. 4人の著者がそれぞれの専門的立場から数学的な問題設定について解説した. Summer School 数理物理「量子場の数理」の講演をもとに執筆。

まえがき

 本書は2013年Summer School数理物理「量子場の数理」の講演記録を発展 させたものである.Summer School数理物理の企画は,1987年に荒木不二洋先 生,江沢洋先生によって学習院大学を会場に始められたものであり,2012年から は小嶋泉と河東泰之が引き継いで東京大学で開催しており,その後緒方芳子も世 話人に加わった.原則として毎年違うテーマで8月ごろに開いている.参加者は 例年100人前後であり,「これから研究を始めようとしている院生や,数理物理 の広い分野にわたる(専門外の)研究者を対象とする入門的な講義」という趣旨 で開いているが,一般に広く告知を行っているため,学生や,教育・研究者では ない一般の方の参加も毎年かなりある.これまでの講演者,講演題目については
 http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/yasuyuki/mp-old.htm
で公開されている.
 上にも書いた通り本書のテーマは場の量子論に現れる数学的構造である.場の 量子論は物理学の精密かつ広大な理論であり,多くの実験結果を高い精度で予言, 説明することに成功している.物理学の立場から場の量子論について書かれた書 物も数多いが,一方数学の立場から見ても,場の量子論は挑戦すべき多くのテー マを抱えた問題とアイディアの宝庫である.特に近年,場の量子論の影響が数学 のほぼあらゆる分野に及んでおり,これからもこの傾向はどんどん強くなってい くことだろう.本書では4人の著者がそれぞれの立場から数学的な問題設定につ いて解説した.このテーマについて広く関心を持っていただければ幸いである.

  2016年6月                          編者

目次

・相対論的量子電磁力学の数理……新井朝雄
 1 序
 2 場の古典電磁力学
 3 正準量子化―発見法的議論
 4 自由場
 5 自由場の正準量子化―発見法的議論
 6 フェルミオンフォック空間と自由な量子ディラック場
 7 ボソンフォック空間
 8 自由な量子輻射場の構成(Ⅰ)―クーロンゲージの場合
 9 CCRの表現としての量子輻射場
10 自由な量子輻射場の構成(Ⅱ)―ローレンツゲージの場合
11 相互作用モデル
12 結語
A 付録 ヒルベルト空間上の線形作用素に関わるいくつかの概念


・共形場理論と作用素環……河東泰之
 1 代数的量子場の理論
 2 カイラル共形場の理論
 3 例
 4 表現論
 5 局所共形ネットと頂点作用素代数
 6 分類理論
 7 カイラル共形場理論からフル共形場理論へ
 8 カイラル共形場理論から境界共形場理論へ
 9 超対称性と非可換幾何学


・構成的場の理論―古典的な問題の紹介……原 隆
 1 構成的場の理論とは?
 2 場の理論と統計力学
 3 統計力学における臨界現象
 4 くりこみ群の描像
 5 場の理論の構成の実際―φ{^4}{_3}理論
 6 Trivialityの問題―φ{^4}{_d}理論(d≧4)
 7 簡単な文献案内


・非相対論的量子場とギブス測度……廣島文生
 1 ボゾン・フォック空間
 2 確率論的準備
 3 ネルソン模型
 4 基底状態の存在・非存在
 5 マルチンゲール性と固有ベクトルの空間的減衰性
 6 ギブス測度
 7 紫外切断のくりこみ理論