ひらいてわかる線形代数
市原一裕・下川航也 著
小須田 雅・寺垣内政一・中内伸光・村上 斉 編
B5判・並製・192頁・2200円+税
大学1,2生向け教科書シリーズ。2ページ見開きで1回の授業
まえがき
本書は大学の理工系1 年生向けの線形代数の教科書である.
この本では, 具体的な行列の計算, 逆行列, 行列式を求めることができ, 抽象的な数学の議論に慣れ,
ベクトル空間の概念を習得し, 行列の対角化を行えることを目標にしている.
最近では, 微分積分に比べて, 線形代数の方が抽象的でわかりにくいと感じる学生が多いようであ
る. 本書では抽象的な側面においても, できるだけ具体的な例を用いた記述を心がけている. たとえ
ば, 一般のベクトル空間の議論の結果として得られる行列の対角化については, 漸化式をみたす数列,
線形微分方程式, 二次曲線への応用にそれぞれに一つの節をあてている.
本書で扱う主な項目は次の通りである.
・ 集合, 写像, ベクトルなどの数学の基礎的概念の導入.
・ 一次変換を用いて行列, 行列の積を導入.
・ 連立一次方程式の解法(はきだし法, クラメールの公式). 行列の階数を用いて解の存在を議論.
・ 行列式の計算. 逆行列の公式.
・ 抽象的ベクトル空間論. 基底により得られる線形写像と行列の対応.
・ 固有値, 固有ベクトルを用いて行列の対角化. 数列, 微分方程式, 二次曲線への応用.
○学生向けの本書の使い方
線形代数で学ぶ行列の積, 逆行列, 対角化などの計算, および, 連立一次方程式の解法などは, 数学
以外の分野でも現れる. そのため, そのような計算ができることが, まず大事である. さらに, 効率的
に計算を行う方法を考察する際には, 理論的側面が必要になるだろう. 実際の応用以外にも, 数学の考
え方, 論理的に議論を行う方法を, 大学の初期の段階で学び実践することは重要である.
本書は, 各授業ごとに 4 ページが割り当てられている. 授業の際には, 初めの 2 ページを見ていれ
ば基本的に十分である. 証明や補足的事項は, 続く 2 ページの解説ノートに書かれている. 必要に応
じて参照して欲しい.
これからの国際化にむけて, 主な定義には英語訳を加えておいた. 参考にしてほしい. また, 高校ま
でとは多少異なる記号を用いていることがある. 例えば, 不等号の記号に, 大学や国際的に一般的な?
と? を用いている. また, 証明の終わりを表す記号として, を用いている.
○教員向けの本書の使い方
本書は, 理工系の大学 1 年生向けに 1 年間で開講される線形代数の授業の教科書であり, そのよう
な授業の標準的な項目を含んでいる. 本書は, 見開きページに授業の内容を含めるという独特の形式
を取っているが, 扱う内容は一般的な教科書と同様であるため, 標準的なカリキュラムを採用してい
る場合には安心して採用していただけると思う.
本書は前期 14 回, 後期 14 回, 1 年間計 28 回分の授業内容を含んでいる. 前期, 後期とも 1 回分
余裕を持たせてあるので, 最終授業では発展的な内容を扱うか, 復習の時間にあてていただきたい.
また, 0.1 節と 0.2 節は, 両方で 1 回分の授業であることに注意して欲しい.
本書には, 中間試験, 期末試験用の問題も収録している. 前期, 後期とも6 題ある. 1 から 3 ま
でが第 1 回から第 7 回までの授業の範囲, 4 から 6 までが第 8 回から第 14 回までの授業の範囲
からの出題となっている. 中間試験を行う場合には, 第 7 回終了後に1 から 3 までの問題を用い
て行って欲しい. 期末のみを行う場合には, 問題量を適宜調整して頂きたい.
○参考文献について
紙面の都合で, 本書で扱うことができなかった内容や, 省略した証明は, 以下にあげる参考文献など
を参照して欲しい.
[1] 線型代数入門, 齋藤正彦著, 東京大学出版会.
[2] 線型代数演習, 齋藤正彦著, 東京大学出版会.
[3] 線形代数学, 川久保勝夫著, 日本評論社.
これらの参考文献を, 解説ノートでは数回引用する. 「参考文献を参照」と書かれている場合には,
上記の本を参照して欲しい.
2009 年 12 月
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