テキスト理系の数学4 物理数学
上江洌達也 著
A5判・並製・280頁・2800円+税
物理数学を“使う”ことに主眼をおいた理工系学部2年生向けの教科書・参考書。
豊富な問題及び詳細な解答をつけた。
まえがき
はじめに
この教科書では,大学の理工系の学部二回生の物理関連の講義(力学,電磁気
学,熱力学,量子力学等)で用いられる数学の解説を行う.そのため,各論的な
色彩が強く,また,記述も数学的厳密さより,直感的理解に主眼を置き,図を
多く用いる.したがって,必ずしも厳密ではない議論もあるが,定理の前提と
なる仮定(主として十分条件)は,なるべく明確に記すことにした.例えば,
2階偏微分の順序が交換できる条件などであるが,物理数学を‘使う’ことに主眼
をおいて学習したい読者は,あまり気にする必要はない.なお,ストークスの
定理やガウスの発散定理に関しては,制限された図形についてではあるが,厳
密な証明を巻末の付録に記してある.さらに厳密な理論を学習したい読者のた
めに,微分積分学や線形代数学などの教科書を本文中や巻末に参考文献として
挙げてある.
本書の構成は,次の通りである.まず,第 1章で,必要となる微分と積分の
公式についてまとめる.定義や公式についての証明は,たとえば本シリーズの
『微分積分』を参照してほしい.
第2章では,ベクトルについて解説する.一般のベクトル空間(線形空間)に
ついては,例えば本シリーズの『線形代数』などの参考文献を読んでもらうこ
とにして,ここでは,主として3次元空間での有向線分について解説する.
第3章では,行列と行列式,行列の固有値と固有ベクトルについて解説する.
物理学や工学では,特にエルミート行列やユニタリ行列が重要になるが,主に
それらについて解説する.
第4章では,一般のスカラー,ベクトル,テンソルについて解説する.
第5章は,ベクトル解析で,勾配,発散,回転などについて解説する.また,
ストークスの定理やガウスの発散定理の解説を行う.特に,ストークスの定理
やガウスの発散定理を電磁気学に適用する際の注意点を少し詳しく記した.
第6章は,曲線座標系におけるベクトル解析である.特に,直交座標系につ
いて,勾配,発散,回転などの具体的表式を導く.
第7章は,フーリエ級数とフーリエ変換の解説を行う.ここでは,主として
定理を説明し,それらの応用について解説する.
第8章では,簡単な偏微分方程式の解法について解説する.
付録には,本文中で証明なしに述べた命題や定理についての証明を載せてある.
また,本文中に適宜,問題を出してあり,巻末にヒントやかなり詳細な解答を
載せてあるので,理解を深めるのに有用であると思う.また,付録に,さらに
理解を深めるための発展問題を載せてある.巻末の解答を参照してほしい.
本書は,著者が10年にわたって奈良女子大学理学部物理科学科において,2回生
の前期に開講した講義「物理数学1」の内容に,フーリエ級数,フーリエ解析と
偏微分方程式の部分を付け加えたものである.
本書の執筆に際しては,巻末に掲載してある参考書のいくつかを参考にしたが,
他の本にない内容も含まれている.例えば,上述した積分定理の電磁気学への
適用の際の注意点などである.
本書の文中の誤植等については,随時以下の数学書房のホームページに情報
を掲載する予定である.
2013年1月奈良にて
著 者