テキスト理系の数学1 リメディアル数学
泉屋周一・上江洌達也・小池茂昭・重本和泰・徳永浩雄 著
A5判・並製・224頁・2200円+税
まえがき
本書の『リメディアル数学』という書名にある「リメディアル」とは,ごく最
近の外来語で英語のremedial をそのまま発音したものである.その意味は英和
辞典を引いてみると医学用語における「治療の」という訳がもともとの意味のよ
うだが,転じて「補習の」という意味がある.昨今,大学の1年生の講義でもい
くつか「リメディアル数学」とか「入門数学」とかの題名の講義が目に着くよう
になってきた.これらは,大学入学までに習得してきた数学の内容と,これから
大学で学ぶ数学の内容のギャップを埋めるための講義である.たとえば,経済学
部などの数学を必要とする文系学部に入学した人たちに対して,受験勉強などを
通して習得しているべき内容を補う場合が多い.反面,理系の学部へ進学する人
たちには,高等学校の数学のあと直接「線形代数」や「微積分」といった,大学
1 年生で学ぶ標準的な講義が行われている場合がほとんどであるといえる.しか
し,近年,大学入学や卒業時での知識の量は以前と比べると各段に少ないことが
指摘されている.それは,最近の教育システムにもよるが,数学の発展が早すぎ
て,大学などの講義でも教えるべき内容を取捨選択しなければならないことも大
きな原因の1つであるといえる.
本書は,「シリーズ理系の数学」の第1巻として,「理系学生のためのリメディア
ル数学」を特に意識して執筆されている.その意味では,通常の「リメディアル
数学」より多少とも難しい内容も含んでいる.理系学部の学生にとっては,ある
程度常識と考えられているにも関わらず,現在の高等学校でも大学の講義でも教
わる機会の少ない内容を補ったものと言うことができる.したがって,内容はあ
る特定分野に偏ることなく,数学全体を通したものとなっている.知識の少なさ
は「能力のなさ」とは関係のないところにあり,その後の努力次第ではいくらで
も補うことができるものである.読者の皆様には,本書の内容をよく理解して,
理系数学の「常識」を身につけていただきたい.
本書の内容は,以下のように,それぞれ独立して読める4つの部分からなる.
・ 第1章 論理と命題
・ 第2章〜第4章 ベクトルと平面・空間図形,平面上の1 次変換,
複素数と複素平面
・ 第5章〜第7章 整数と多項式,多変数の多項式と対称式,
4次以下の方程式の解の公式と置換
・ 第8章〜第10章 微分と積分,微分方程式とその解法,理工学への応用
これらの内容は読者のみなさんが読み進めていく場合や講義で使用する場合
には,必要な部分から読み始めても理解には支障がないように書かれている.特
に,第1章は一見,取りつきにくく見えるが,数学を考える上での基本なので,
ぜひ最初に読んで,今まであいまいにしてきた論理的思考方法を整理してみるこ
とをお勧めする.その他の部分は基本的には,どこから読み始めても理解できる
ように書かれている.また,各章の問いの略解は数学書房のホームページに随時
アップしていく予定である.
http://www.sugakushobo.co.jp
本書を執筆するにあたって,距離的に離れている多人数の著者が共同で執筆し
たための連絡の不行き届きや昨今の大学での業務の忙しさなどで執筆が大幅に遅
れたにもかかわらず,辛抱強くお付き合いしていただいた数学書房には大変お世
話になった.心から感謝の意を表したい.
2010年9月
著者一同