数学書房選書5コンピュータ幾何

阿原一志 著
A5判・並製・192頁・2100円+税

・対話型幾何ソフトウエアの設計――『キッズシンディ』
・デジタルカーブショートニング――『てるあき』
 これらの幾何学世界と計算機アルゴリズムの間(はざま)を行き来しつつ,
 数学の立場からその内容を解明していく.

まえがき

 本書はコンピュータ幾何をテーマとしています.コンピュータ幾何というと,計 算幾何学が思い起こされますが,それとはやや違います.計算幾何学とは(主に 画像処理や数式処理のために)「幾何学の言葉で述べることのできるアルゴリズム の研究をテーマとする計算機科学の一分野」のことを言います(wikipediaより). この本で取り扱うのは,「数学の分野としての幾何学の中に計算機を持ち込むこと で,幾何学特有の数学世界をコンピュータに実装するための数学の一分野」である と定義し,これをコンピュータ幾何学とよぶことにします.
 本書では次の2点について,幾何学世界と計算機アルゴリズムの間(はざま)を 行き来しつつ,できるだけ数学の立場からその内容を解明していくことを目標と しています.

 第 1 章「対話型幾何ソフトウエアの設計 ― 『キッズシンディ』」
 対話式幾何学ソフトウエアはコンピュータの画面上で作図を行うソフトウエア のことをさし,有償・無償のものを含めて数多く発表されています.ある程度の 平面幾何学の定理であれば,計算機が判定することもできるようになっています. この章では,対話式幾何学ソフトウエアに必要な数学的背景や,実際に著者が開 発したソフトウエア「KidsCindy(キッズシンディ)」に使われているアルゴリズム を数学的に解説したいと思います.

 第 2 章「デジタルカーブショートニング ―『てるあき』」
「てるあき」は曲面上の曲線についてのパズルゲームです.そこには,曲線のホ モトピーやデーンツィストなどといった,位相幾何学(ポロジー)特有の概念が 現れます.ソフトウエア「てるあき」に現れる位相幾何学と,それをコンピュー タ上でどのように扱っているか,またそこにどのような新しい数学が現れている かを解説したいと思います.
本書は,理系の学部1・2年生の知識があれば理解できるように丁寧に説明して います.ただし,計算機科学の教科書とは違い,計算機に実装するための具体的 なアルゴリズムを説明したり,計算量に関する効率化を説明したりすることはほ とんどしていません.ですから,この教科書を読んで,実際にプログラムを製作 するためには,計算機科学の知識やテクニックが別途必要であることを最初にお 断りしておきます.
(以下略)
  2014年7月
                                  著者

目次

第1章 対話式幾何ソフトウエアの設計
   1.1 対話式幾何ソフトウエア
   1.2 射影幾何学と静的問題
   1.3 作図決定論と動的問題
   1.4 自動定理証明機能


第2章 デジタルカーブショートニング
   2.1 写像類群ソフトウエア『てるあき』
   2.2 曲面上の曲線のホモトピー
   2.3 多面体分割,普遍被覆空間
   2.4 デジタルカーブ,書きかえ系
   2.5 トーラス上の正方格子によるデジタルカーブショートニング問題
   2.6 双曲的四路多面体分割上のRS
   2.7 三路(trivalent)の場合

付 録
   A.1 同値関係,商集合
   A.2 写像,全射,単射
   A.3 連続写像,同相写像