考える線形代数
阿原一志 著
A5判・並製・224頁・2300円+税
「やさしい証明は自分で考えなさい」を基本的スタンスとして執筆した大学1,2年生向けの教科書・参考書。
まえがき
この教科書は大学の初年度の線形代数の授業で実際に使われた授業ノートをま
とめたものである.授業の対象となる学生はほとんどが数学を専攻しない学生で
あって,一つ一つの定理の詳細な証明は必ずしも必要でないとの配慮から授業を
行っている.一般教養の数学は「考えることを楽しむ科目」であるはずだとの信念
から,最低限の知識を用いて最大限の練習問題を引き出せるように工夫した.そ
のため,練習問題は基礎的な問題からかなり応用的なものまで並ぶこととなった.
実際に期末試験に出題した文章題なども収録してある.
「ゆとり教育」世代になってから,高校までの知識をあまり仮定できなくなっ
た.複素数や行列についても,非常に基本的な内容を念のため含めている.また,
大学の数学固有の記号や言葉についても,高等学校での数学との違いをていねい
に説明することにした.授業の範囲については,大学の初年度ではジョルダン標
準形を教えなくなったが,対角化できない行列の行く末を一応知っていることは
大切だと思うので,最後の章に簡単にまとめた.もちろん最小多項式などには触
れていないので,数学としての厳密さはないことを断っておく.
この本のスタンスは従来の線形代数の教科書とはやや違う.やさしい証明は自
分で考えなさいというのがこの本の目指すところである.解答がなければ勉強で
きません,と学生に言われる今日この頃であるが,頭を絞って解答を考えること
に意味があるのである.散々考えて分からないことは罪ではなく,財産になると
思わなければならない.
あるとき学生から相談を受けた.
「数学を楽しいと思えないんですけど.」
「どうしてでしょう?」
「たくさん考えても答えがわからないので.」
「パズルは好きですか?」
「はい.」
「パズルは答えがわからなくても面白いでしょう?」
「はい.」
「数学も,『考える』ことがおもしろいんですよ.」
単位を取ることに汲々としていると線形代数の多くの計算は最悪に退屈である.
しかし,わずかの定義とルールから問題を考えることは楽しい.楽しい部分を読
者が汲んでくれることを切望してやまない.
通常の大学 1 年生で習う線形代数の範囲を超える内容も含まれているが,これ
は,基本的な線形代数の内容から発展的なものを「見る」ことができることを示
すためのものである.そのようなものには*印を付した.*印のついた節や演習
問題は必ずしも学習しなければいけないわけではない.
なお,章末問題の答えは本書にはありません.読者にぜひ自分で考えて欲しいか
らです.ただ,解答例をまったく示さないというのはどうかと思いますので,Web
を通じて公開します.「考える線形代数」で検索すればたどり着けるページを作っ
ておきます.
2010 年元旦
著 者