本書は大学2・3 年次の代数学の入門書として書いたものである.大学1・2 年次の線形代数学に引き続いて代数学を学びたい方を念頭においているが,で きるだけ少ない予備知識で代数の魅力を味わいたいと考えている読者のために 読み物としても十分おもしろいように配慮している.予備知識としては,木村・ 竹内・宮本・森田『明解線形代数(日本評論社) を参考にして欲しいが,他の類 似の本でも良い. 本書は群,環,体等の抽象概念を天下り的に定義してからはじめるのでなく, 逆にいろいろの興味深い例からはじめてそれらを系統的に扱う必要性を読者に 十分認識してもらってからこれらの代数系を導入するという,ブルバキとは対 極的な行き方を取っている. 第1 章は群論の入門である.雪の結晶や正四面体の対称性から出発して群の 公理に進む.章の最後では3 枚の黄金長方形を組み合わせて正二十面体を作る 方法,正多面体の回転対称群を具体的に知る方法などをわかりやすく述べる. 第2 章では整数と多項式の類似性を論ずる.整数と多項式(または整式) の 見かけは非常に違うが,その全体(つまり集合) を考えると,素因数分解,最大 公約数,最小公倍数などについて共通の性質を持っている.これらから整数と 多項式の単因子論が導かれ,線形代数で学んだジョルダン標準形に対する新し い見方ができる.この章は(可換) 環論の入門と考えてよい. 第3 章では定木とコンパスによる作図と関連付けながら体の理論をやさしく 述べる.いわゆるガロア理論は扱わない.角の三等分は一般に定木とコンパス では作図できないが,T 字型の簡単な道具を使えば可能なことを述べる. 第4 章は整数論の楽しい話題である.整数論は非常に長い歴史を持ち,数学 の女王と呼ばれている.歴史が長いだけあって整数論の結果には驚くほど美し い,または不思議なものが数多くある.また今でも未解決の難問も多い.この 章ではその中から比較的意味の分かりやすいトピックを選んで楽しい読み物と した.証明のやさしいものには証明をつけている. 前著,『明解線形代数』のときと同様,本書の作成にあたっても多くの同僚教 員の意見,種々の文献を参考にした.また授業で使ってみて学生の意見も参考 にした.ここに感謝したい.前著と同様全国の大学で教員・学生の諸氏に幅広 く読まれることを期待します. 2009 年夏 木村達雄,竹内光弘,宮本雅彦,森田純
第1 章対称性と群1 1.1 平面における対称性........................ 1 1.2 空間における対称性(正四面体の回転を例として) ........ 5 1.3 群の公理と抽象的な群....................... 10 1. 公理.................................. 10 2. 群の例................................. 12 3. 法n と巡回群............................. 14 1.4 部分群と群の生成系........................ 18 1. 正三角板の対称変換群........................ 18 2. 正六角形の対称変換の群....................... 20 3. 部分群................................. 21 1.5 より複雑な群の例......................... 26 1. あみだくじと置換の群........................ 26 2. 行列の群............................... 32 1.6 準同型と同型............................ 34 1.7 群の直積.............................. 39 1.8 ラグランジュの定理と同値類................... 43 1. 剰余類................................. 43 2. 共役類................................. 47 1.9 発展................................. 51 1. 群を解明する方法........................... 51 2. 多面体の対称群............................ 58 第2 章整数と多項式64 2.1 整数................................. 64 1. 約数・倍数・素数........................... 65 2. Z のイデアル............................. 67 3. ユークリッド互除法(Z の巻) .................... 71 4. 素因数分解.............................. 74 5. 合同と同値関係............................ 77 6. 中国剰余定理............................. 80 7. フェルマの小定理........................... 83 2.2 多項式............................... 85 1. 約元・倍元・既約多項式....................... 89 2. K[X] のイデアル........................... 92 3. ユークリッド互除法(K[X] の巻) .................. 95 4. 多項式の分解............................. 97 5. 既約性の判定法(K = C, R の場合) ................. 98 6. アイゼンシュタインの判定条件................... 100 7. ガウスの補題............................. 102 8. 既約性の判定法(K = Q の場合) ................... 103 2.3 環.................................. 106 1. 代数系................................. 106 2. 例................................... 109 3. 整数環と多項式環........................... 110 2.4 発展:単因子論(整数版) とアーベル群の構造........... 112 1. 整数行列の単因子論......................... 112 2. 有限生成アーベル群の基本定理................... 116 2.5 発展:単因子論(多項式版) とジョルダン標準形......... 119 1. 多項式行列の単因子論........................ 119 2. ジョルダン標準形........................... 125 第3 章定木とコンパスによる方程式の解法と体132 3.1 体について............................. 132 1. 体とは?............................... 132 2. p 元体上の線形代数.......................... 134 3. p 元体上の多項式環.......................... 136 3.2 複素数を有理数から眺める..................... 136 1. 有理数の公理的定義......................... 136 2. 幾何と代数方程式........................... 137 3. 複素数体に含まれる体の例...................... 140 3.3 ベクトル空間の次元と拡大次数.................. 142 1. 部分体から拡大体を眺める(ベクトル空間として) ......... 142 2. 拡大次数[K(r): K] の意味..................... 146 3.4 体の歴史的問題........................... 149 1. 方程式の解法............................. 149 2. 体の萌芽(古典的問題) ........................ 150 3. 定木とコンパスを使って....................... 152 3.5 歴史的問題の不可能性....................... 154 1. 拡大の繰り返しと拡大次数...................... 154 2. 角の三等分の不可能性........................ 156 3.6 円分体............................... 158 3.7 少し抽象的に............................ 163 1. 素体(一番小さな体) ......................... 163 2. 有理関数体.............................. 165 3.8 代数学の基本定理の証明...................... 167 3.9 発展................................. 170 1. 代数閉体............................... 170 2. 乗法が非可換な四則演算を持つ代数系................ 171 3. 正n 角形の書き方.......................... 172 4. T 字型定木とコンパスによる任意の角の三等分........... 173 第4 章整数論の楽しい話題176 4.1 ピタゴラス数とn =4 の場合のフェルマの最終定理....... 177 4.2 偶数の完全数............................ 180 4.3 素数は無限個存在する.ではどのくらい? ............. 182 4.4 自然数のベキ乗の有限和とベルヌイ数............... 187 4.5 自然数の偶数ベキ乗の逆数の無限和................ 191 4.6 オイラーの関数とメビウスの反転公式............... 194 4.7 RSA 暗号.............................. 197 問題の略解 203 参考書 220 人物(数学者) 一覧 222